ハンドメイドパイプは「媒体変換」が可能か
「媒体変換」というとダビングなどのメディアコピーをイメージする人が多いと思うが、その出発点は「拓本」なのではないかとあっしは考えている。拓本とは、石や木に刻まれた文字や紋様を紙に写し取ること。昔はこうして三次元のものを二次元へと複写していた。
パイプの主流であるクラシックシェイプはこれと似た考え方で作られる。しかし、パイプは拓本と違って二次元のデザインから三次元のモノ作りになる。大量生産が可能なビリヤードなどのパイプはみな、正面から見るとシンメトリーになっている。つまり側面から見たパイプのフォルムをデザインの要にしているわけで、だから平面の紙に図面を起こしてから機械で立体に削っていくという製造法が成り立つのだ。ある意味、これも媒体変換の一種といっていいだろう。
しかしフリーハンドで作るパイプはそうはいかない。たとえばミッケが作ったパイプを図面で再現しようとすると、これはかなり難しい。ハンドメイドパイプというのは、右から見た側面と左から見た側面にも微妙な違いがあるし、同様に正面から、後ろから、上から、下からと、どの面から見ても味わい深く、それらが渾然一体となって美しさを醸しているものだからだ。
こうした「すべての面がフォーカルポイントである」という考え方を日本では「六方正面」といって、根付などを鑑定する際によく言われてきた。根付はただ見るだけでなく、その形を手で触ってみることで味わい深さがさらに増す。ハンドメイドパイプにもまったく同じことが言えるとあっしは思う。ここまで来ると、ハンドメイドパイプを媒体変換することなんて、もう不可能に等しいだろう。